相続と遺言について
■「相続」ではなく「承継」という発想を
「相続」と言えば、どうしても配偶者や自分の血のつながった家族だけに資産を遺していくというイメージをお持ちの方が多いようです。当然に家族のために働いてきたのですから当たり前と言えばそうなのですが、実は必要のない方に大切な財産を引き継いでいるケースがたまに見受けられます。
現金ならいくらも らっても良いというものでしょうが、それでも「宝くじと相続は、人生を狂わす」といわれるように、突然大金が入ることによって、それまでの生活ペースを乱す場合もあり得ます。
特に、気を配っていただきたいのが、「不動産」と「株式」の相続です。
「共有持分」という数字上の割合的所有権はありますが、どちらも物理的には実際に分けられない財産です。乗用車を二人で分けなさいと言えば、「そんなの困るよ」という方が多いと思います。また、「長男に車を相続させる」といっても、長男が免許証を持っていなかったら売るしかないですよね。「不動産」と「株式」も同じなのです。
不動産ならできるだけ実際に住んでくれる家族に、株式なら実際に事業を継いでくれている家族に単独で遺してあげると無駄な紛争が未然に防げます。さらに、実際に引き継いでくれる人が家族の中にいなかったら、他人であってもその人に遺してあげるべきではないでしょうか。もっとも、近年は相続人のいらっしゃらない方も増えています。
是非、「相続」から「承継」という発想で相続をとらえていただければと思っています。
私はライフワークで ある「まちづくり」の活動の一環として、京町家の保全にもかかわっていますが、多くの場合、京町家を守り続けて欲しいという願いから、子供数人の共有になさいます。理由は、共有にした方が子供たちの責任感が出て大切にしてくれるという発想のようです。
よくお考えいただきたいのは、子供はそれぞれ独立した世帯を持っていき、ひとつ屋根の下で生活するというのは子供時代だけです。そして、子供に子供ができ、相続人がどんどん増えていくと、守るどころか管理すら自由にできなくなり、町家は放置されたりお金に変えられたりするのが実情です。
これが京町家の破壊に拍車をかけています。
何も町家に限った話ではないのですが、不動産の所有者(共有者)の数が増えれば増えるほど、意思が希薄になり、元の形態のまま保全することが困難になるということをご理解いただいたうえで、承継計画を立てていただければと思います。
昔は、家督相続制度で、すべての財産を一人の相続人に遺してきました。
そして、二男などには、分家としてそれぞれ不動産や事業権を渡してきました。女性などの子供に平 等性が少ないということで、戦後の新憲法から法定相続制度に変更されましたが、こと不動産や事業権に関しては、無駄な分割を防ぐことができました。したがって、町並み がそんなに変わりませんでした。しかし、現在は相続の度に「まち」が壊されています。是非、この事実を踏まえて事前の相続手続きをしていただければと、拙に願ってやみません。